ロッキードと偽り不正 〔 H21.10.5 〕

偽り不正の行為とは
 偽り不正とは、脱税の意思を持って偽計その他の工作をして、税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめる過少申告や無申告をする行為で、国税反則取締法に問われると刑事罰として5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処せられます。

昭和56年改正と附帯決議

 偽り不正の場合の条項は国税通則法の立法時から存在しているのですが、昭和56年の改正で偽り不正の場合の更正処分の期間制限や国税債務の時効の期間が5年から7年に延びました。
 昭和56年に改正したのは、ロッキード事件を契機として、その裁判中のことで、ロッキード事件のような大事件をめぐる世論への配慮があったからでした。
 ただし、衆参両議院大蔵委員会では「更正、決定等の制限期間における調査に当たっては、高額かつ悪質な脱税者に重点を置き、中小企業者を苦しめることのないよう特段の配慮をする」旨の附帯決議をしています。

[003/013] 94 - 参 - 大蔵委員会 - 21号 

昭和56年05月15日 

○藤井裕久君 私は、ただいま可決されました脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律案に対し、各派共同提案による附帯決議案を提出いたします。

 案文を朗読いたします。

脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)

 政府は、本法施行に当たり、次の事項について配慮すべきである。

一、脱税の調査に当たっては、法令の理解度、脱税の意思の程度等の相違に配慮し、納税者の立場をも十分尊重して対処すること。

一、今回の改正により延長された更正・決定等の制限期間にかかる調査に当たっては、原則として高額、悪質な脱税者に限り、いたずらに調査対象、範囲を拡大するなど、中小企業者等に無用の混乱を生ずることのないよう特段の配慮をすること。

一、所得発生の時期から相当期間経過して更正・決定等が行われる場合、直ちに納税することが困難とたる納税者を救済するため、納税緩和制度の弾力的運用に努めること。

一、保存期間が延長される青色申告者の帳簿書類の範囲については、中小企業者等に過重な負担とならないよう、最少限度のものとすること。

  右決議する。
何とこの附帯決議の提出者は、今の財務大臣の藤井裕久です

 
3年、5年、7年
 税務調査で修正申告や更正処分がされる通常の遡及期間は所得税で3年以内、法人税で5年以内です。たとえ仮装隠蔽行為があり、重加算税が課せられる場合でもです。
 所得税で5年に及ぶのは、偽り不正が問われた場合に限られ、さらに、所得税・法人税とも7年に及ぶのはその偽り不正の行為が特に「高額かつ悪質な脱税者」と言える時だけです。

5年の時効の壁

 5年と7年との間には、そのほかもう一つ時効という壁もあります。
納税債務は5年で時効となります。法律で、時効の利益は放棄できないと定められていますので、時効を無視した修正申告はそもそも無効です。修正申告ならいつでも7年間遡及提出ができるというわけではないのです。

立法の経過と趣旨を忘れまい

 ロッキード事件から30年以上も経ってしまうと、その事件の衝撃が生み出した重いペナルテイーが、平時の事案に安易に拡張適用される傾向にあります。附帯決議に現れている立法趣旨を心して忘れないようにしたいものです。

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